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武蔵小杉で読書会をやってる人のブログ

まだ出会えていない〈ことば〉が、ここにあります

【芥川賞直木賞予想 #156-3】加藤秀行『キャピタル』を読んでみた

70 芥川賞直木賞銓衡ウォッチ 31 小説・創作

続いては、加藤秀行『キャピタル』を読んだ。
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この作家は、第154回のとき「シェア」で芥川賞候補作となった。今回で二回目。前回ぼくは受賞と敢えて予想した。柔らかな文体で、憂鬱を包んだ都市小説。素材も「民泊」という今どきのものだった。技のある作家だと感じて好感を持った。

今回の『キャピタル』も前作のモチーフを引き継いでいる。
外資コンサルティングファームで働く須賀は、会社から長年勤務の報償として一年間の「サバティカル=一時休養」を与えられている。訳あって、いまはタイのバンコクのアパートに暮らしている。
そんな彼のもとに、ファームの元先輩社員である高野から依頼がある。高野がいま務める会社で採用予定だったタイ人女性のアリサが入社を辞退してきた。彼女は入社前に交通事故に遭ったあとで入社を取りやめるという連絡があったきり、音信不通となってしまった。アリサがなぜ入社を辞退したのか、須賀に調べてほしいというのだ。

アリサはタイの資産家の娘で、親の会社を受け継いでいるとを知る。須賀は彼女と行動を共にするにつれて、彼女の人生観に触れ共感する・・・。
いわゆる「勝ち組中の勝ち組」を達成した若者たちのリリカルな諦念を描いた小説、とひと言で言ってもいいのだが、物語は村上春樹チックな文体にのって、ゆったりと進んでいく。
ある意味では、心持ち良く。
ある意味では、悪意が感じられて。

ぼくにはこの村上春樹の模倣が、徹頭徹尾鼻についてならなかった。
ぼくは冒頭に「技のある作家」だと言ったが、文体の模倣にはたしかに「技」はある。
だが、村上春樹「風」は村上春樹であれば充分である。この小説には模倣以上の「野心」も「オリジナリティ」も感じられなかった。


ここまで。
○宮内悠介「カブールの園」
×加藤秀行「キャピタル」